@神保町花月 13:00 E12
悲しき六連星(むつらぼし)の記録。
――いーち、にーい、さーん、…。
もういいかい?おばあさん(小石川)が目を隠して座っている。
そこへキワミ建設のヤスオ(濱口)と弟分のテツジ(阿部)が土地の権利書を奪いにやってきた。このヤマが成功したらテツジを正式な組員にしてくれるよう、ヤスオはボスに頼んでいる。でも俺、あのボスあんま好きやないんですよ。人をモノで見てるっていうか…兄貴がボスやったらええのに。
駄菓子屋のおばあさんは、勝手に上がり込んできた2人を笑顔で迎え入れる。
テツジは古い日記を見つけた。ヤスオが読んでみる。
1945年4月、太平洋戦争末期、海軍航空隊に所属する佐藤大門少佐の日記だった。
若い新兵たちをまとめる佐藤大門少佐(大)は、本日から配属になる新人を探しに出ていった。
新兵たちのリーダー的存在のアイカワ(遠山)、喧嘩っ早いナカバヤシ(小浜)、注意力不足なヤマキ(山西)、常に人形を手にはめているタヌマ(じろう)、無口なトガシ(五明)は、新しく配属になった特攻隊から1人帰還したカサイ(大波)の暴言にケンカになってしまう。どうせ日本は負ける。敵艦を見たこともないヤツが知った風な口を利くな!
トガシとカサイがそれぞれ立ち去ったあと、1人の少女(岡田)が通りかかる。可愛い!と盛り上がる4人。
日記を読み進めるヤスオ。兄貴、戦争っていつ終わったんすか?おまえ何も知らないんだな。すんません、中卒なもんで。1945年8月15日だ。
今から67年前か…おばあちゃん、その頃いくつやった?6歳くらいかねぇ。へぇ、じゃあ小さかったんや。
おまえは何を聞いとるんや。だって兄貴、戦争がいつ終わったのかも知らなかったんすよ?
まだ終わっとらんよ。おばあさんが言う。いつまで待つんだ?終わるまでずーっと。
ページをめくったヤスオの手が止まる。どうしたんすか兄貴?
上官から特別攻撃隊の任務を言い渡された。部下たちの顔が浮かぶ。
特別…?おまえも名前くらい聞いたことあるやろ。特攻隊だ。
お兄ちゃん…!
中将(忍)は少佐に特攻隊を命じた。少佐は戦果確認機として同行してもらう。
戦果確認ということは、自分以外死ぬということですか!反論する少佐。今すぐ抗命罪で死刑にしてもいいんだぞ?しかし貴様とは同郷の仲。私も撃墜王を殺すほど無能ではない。
新兵たちはたまに通りかかる少女の話で盛り上がっていた。険悪な空気だったカサイも、女の話?仲間に入れて!と急に馴れ馴れしい。
そこへ少佐が戻ってくる。手には“可”“否”と書かれた紙を持っている。
特攻隊として正式に配属になることが決まった。これは命令ではない、志願だ。どちらかの紙を持って私の部屋に来い。
無言で“可”の紙を持って出ていくカサイ。アイカワは口を開く。俺は飛行機乗りになりたくて海軍に入ったんだ。それなのに戦うことも出来ず、ただ敵艦に突っ込むなんて…。
ナカバヤシ、ヤマキ、アイカワ、トガシは“可”の紙を持って出ていった。
残されたタヌマは、両方の紙を持ってうつむく。
日記を読んでいるヤスオ。兄貴、特攻って機体ごとぶつかってくヤツですよね?戻ってくる人はいなかったんすか?
このカサイってヤツは戻ってきとるな。俺と同い年…むちゃくちゃな時代やな。俺なら絶対志願せぇへんのに。
親分が鉄砲玉行ってこいて言うたら行くやろ。それとこれとは話が…。一緒や。大事なもん守るためにやらな勝てん言われたら、やるやろ。たとえ戻ってこれんてわかっとってもな。
戻ってくるよ。だから数えないと。おばあさんが数を数え始める。
食堂でご飯を食べているアイカワ、ナカバヤシ、ヤマキ、カサイ、タヌマ。おっちゃん(安部)のおごりだと聞き喜ぶ5人。
そこへ少女が出前から帰ってくる。見た!?めっちゃ可愛い!カサイの言葉に、今のがずっと言ってた子だよ!と盛り上がる5人。
再び出前へ行く少女の前に、トガシがやってくる。チヒロ!?どうしてここに…。無言で立ち去るチヒロ。
トガシとチヒロは岡山の同郷の幼馴染。おっちゃんの話では、チヒロは空襲で家族を亡くし、最後に会いたい人がいると歩いて岡山から鹿児島までやってきた。その会いたい人って…トガシ?
チヒロを追うトガシ。
あの子、医者にもう長くないと言われててなぁ。せやからあの子が笑うと嬉しいんよ。
チヒロに追いついたトガシ。久しぶりじゃね。トガちゃんもあの人らと同じ飛行機乗りなん?ああ。新聞で見たんやけど、特攻隊って…。言うな!
なんでそんなに死に急ぐん?誰も死に急ぐ者などいない!軍の考えだ。トガちゃんの考えはどうなん!…もう知らん!
少佐がやってくる。女を泣かせたらいかんぞ。少佐、その写真は?ああ、これは歳の離れた妹だ。強情でな、かくれんぼなんてしようものなら俺が見つけるまで絶対に出てこん。じゃあ妹さんのためにも故郷へ帰らないとなりませんね。ああ。
ヤスオにボスから電話がかかってくる。立ち去る2人を見送るおばあさん。テツジに飴玉を手渡した。
兄貴…おばあちゃんここ追い出されたらどうするんでしょうね。何言うてんねん!このヤマ成功させたら正式な組員になれるんやぞ!肩入れしとる場合か!行くぞ。へい。
テツジは手の上の飴玉を見ながらヤスオに付いて行く。
チヒロの病気を心配する新兵たち。笑うと身体にいいんだって。タヌマが言う。行く前に僕たちでチヒロさんを笑わせようよ。思い出すたびにずっと笑ってさ、病気なんてぴゅーって飛んでいっちゃうくらいに。
人形劇やろう!アイカワの提案に、ナカバヤシ、ヤマキ、カサイ、タヌマが乗る。
タヌマはアイカワを河原へ呼び出した。僕、死ぬのが怖いんだ。俺も怖いよ。だったら一緒に志願するのやめよう?でも、俺1人が行かないことでアメリカに負けたらって思うと、頑張らなきゃ。タヌマの人生だから俺が志願するななんて言えない。話ってこれか?ううん、人形劇、頑張ろうね。ああ。
ごめん…みんなごめん…。
傷だらけのヤスオが駄菓子屋へやってくる。権利書はどこや!
テツジが鉄砲玉を命じられた。ばあさんから土地を取り上げるんは可哀想やって親分に楯突いたんや。あのアホが。
アホはあなたよ。お兄ちゃんは弟を守るのが仕事でしょ?ええから権利書出さんかい!日記を持ってきたヤスオがページをめくるが、権利書は見つからない。日記を投げ捨て再び店の奥へ走っていく。
日記を開くおばあさん。脱走していたタヌマが見つかり、別の航空隊へと送られた。あそこへ送られたということは、恐らく…。あいつらに何と言ったらいいんだ。
中将に意見する少佐。何故タヌマを止めなかったんですか!弱兵には死あるのみだ。
昔のあんちゃんはこんな作戦、真っ先に反対してたはずだ!どうしちまったんだよ!おまえの目、昔のままだな。しかし我々はもう子どもではない。
紙を取り出す中将。少佐に渡す。
チヒロがトガシにお守りを渡そうとして突き飛ばされている姿を見る少佐。紙を握りしめて立ち去る。
新兵たちの元へ少佐がやってくる。タヌマはどうしたのですか!名誉ある特攻隊として先に南方へ行ったよ。あいつは志願したんですか!無言の少佐に、また無理矢理や、と吐き捨てるカサイ。
タヌマから預っていた荷物をナカバヤシに渡す少佐。中には人形と手紙が入っていた。
逃げてごめん。先に南方へ行きます。僕の代わりにみんなでチヒロさんを笑顔にしてあげてください。
特攻隊に正式に配属になった。出撃は明日10時だ。
いよいよ本番だな。ああ、人形劇のな!ナカバヤシの言葉に驚く他の兵たち。やらないのかよ?せっかくタヌマが作ってくれたんだぞ。
みんなで人形を取り出す。ソックリなアイカワ、雑なカサイ、ほぼゴリラなナカバヤシ、肌色のよくわからないモノなヤマキ。トガシにはタヌマがいつも使っていた人形が渡された。
中将、少佐とともに水盃を交わす新兵たち。健闘を祈る!中将が敬礼をして立ち去る。
少佐に許可を取り、アイカワたちはおっちゃんとチヒロを呼び出していた。タヌマが言ってました、笑うと元気になれるって。人形劇、見てください!
台本通りにできずケンカになってしまう新兵たち。チヒロがうつむいて泣き出した。チヒロ、おもろいなぁ。おもろすぎて涙が出るなぁ。
チヒロがおにぎりを新兵たちに渡していく。私が握ったんよ。最後にトガシに渡そうとしてためらう。
トガシを呼ぶ少佐。おまえには辛く当たってしまったな。行く前に俺を殴れ。できません。いいから殴れよ、ほら。少佐を殴るトガシ。握手をした腕を取り、少佐はトガシの腕を折った。
上官を殴ったんだぞ?このくらい当然だ。おまえみたいなヤツは、本日を持って特別攻撃隊から解任する。おまえはチヒロさんを連れて故郷へ帰れ。
でも、陣形が崩れます。大丈夫だ、俺が行く。俺が行ってこの馬鹿げた作戦を終わらせる。でも、故郷の妹さんは!大丈夫だ、あいつは我慢強い。それに俺は絶対に帰ってくるぞ。南方から吹く風に乗ってな。でも…。
俺らみんなおまえのこと嫌いやったんや!カサイが口を開く。そうや、人の惚れた女を独り占めしくさって。チヒロちゃん、トガシを頼むね。
おっちゃんが立ち上がる。写真でもどうでっか。みんなで並んで写真を撮った。
ヤスオが持ってきた日記には写真が挟まっていた。あら、その写真。懐かしいわね。
あいつには親がおらんねん。ばあさんに引き取られて育てられたんや。せやからばあさんのこと…。
ずっと待ってるよ。お兄ちゃんなら弟を迎えに行ってあげないと。おばあさんに日記を渡し走り去るヤスオ。
また誰もいなくなっちゃったわね。いーち、にーい、…もういいかい?
もういいよ。
おばあさんが目を開くと、少佐が立っていた。ただいま。待たせたなエツコ。お兄ちゃん…!駆け寄るおばあさん。手を繋いで歩いて行く。
兄貴、すんませんでした。ええわ。あのおばあちゃんは?安らかな死に顔やったで。遺品整理しとったら手紙見つけたわ。トガシチヒロ?これって…。ああ、ちゃんと長生きしたみたいやな。権利書もちゃんと持ってきたわ。あんなボスに渡してたまるか。さすが兄貴!
ヤクザになるのをやめようとするテツジ。そうか。俺も一緒にやめたるわ!やめたらどうします?せやな、たこ焼き屋でもやろか!
兄貴。ん?ありがとうございました。
談笑する新兵たち。白髪になったトガシ。チヒロは去年逝きました。みんなの言った通り、チヒロはよく笑っていました。チヒロと私を、生かしてくれてありがとう。
トガシ!こっち来いよ。何するんだ?人形劇、やるんだよ。大好きな人が笑顔になれるように。
おっちゃんとチヒロ、そして少佐がエツコを連れてやってくる。笑顔で人形劇を見る4人。
いやー、重い!辛い!テーマが戦争なだけあって、笑いどころが少なくみんなとにかく真剣に演技していた。
神保町花月ではふざけまくる大さんが、とんでもなくカッコ良かった。ボケはトガシに殴らせた後くらいか?少ないというより、ほぼ無い。
大きな笑いどころは、笑鷺の登場時のコントと安部ちゃんの情緒不安定と雑な人形登場と笑鷺のラストのコントとじろうちゃん全般。
序盤から泣けて泣けて。ストーリーに入り込み過ぎると笑えなくなりそうなので、癒しの2人のあべを見ていた。どっちも可愛い。
大さんいわく、笑鷺が主役。戦争を知らない青年の更生物語。阿部さんのラストのありがとうございましたが大好きな大さんと忍さん、いつも袖で待ち構えていて、今日も良かったよ!と言ってくれていた。濱口さんは唯一の私服出演。漫才の青いスーツ着用。
安部ちゃんは1公演ごとにほくろを1つずつ書き足していた。誰も知らないので、舞台上で驚いていたらしい。写真を撮るシーンの照明が美しかった。あのシーンの写真が欲しいなぁ。
中将とタヌマの完成度が高すぎて、シソンヌはこういうコンビだと言われていた。似合いすぎる。それ私服でしょ?
食堂のシーンではみんな軍服の上を脱ぐ設定だったが、みんな体型がひどすぎて小浜くんしか脱げず。
「FLAG」以来の戦争ストーリー。お笑い芝居の神保町花月でも、こんな公演できるんだね。私の中の号泣記録は未だ「マイホーム」なんだけど(家族モノに弱い)、「エクセレント」に引き続き口コミで動員が伸びた公演だった。
最初からグランジを信じてあげて!…って、いつものふざけすぎな姿を知ってるからそれは無理かw