神保町花月「こまぎれ」

@神保町花月 19:00 A3

14期以下の超若手メンバーによる1回きりのチャレンジ公演。

派手な白スーツにサングラス姿の男(寺内)が座っている。僕はサイコメトリーなんて、なくなればいいと思ってます。

工場。金子(久保田)とサトシ(松本)は真面目に仕事をするヒロシ(小林)の横ではしゃいでいる。
工場長(海志)が新人のカズヤ(山添)を連れてくる。まともに喋れないくらいの気弱な青年の教育係として任命された金子。

カウンセラーのケン(寺内)の診察室へやってくるカズヤ。仕事はどうだい?みんな優しいよ。本当は僕みたいなヤツが仕事とかしちゃダメなんだと思うけど。でも仕事をしてるうちは能力のことを忘れられるから。

鳩の真似をして遊ぶ小学生のコウジ(石橋)。鳩になりたい!というコウジをたしなめる父親(千葉)。院長、とカズヤがやってくる。就職祝いに何か食べに行こうという院長。院長は僕の父親のことを知っていますよね?いや、知らないんだ。役に立てなくてすまない。カズヤはコウジと去っていく。
そこへ工場長がやってくる。カズヤくんは仕事に馴染めそうですか?ああ、…ありがとう。いいえ、父親が息子を近くで見守りたい気持ちはよくわかりますよ。すまない、このことはカズヤには絶対に言わないでくれ。
一部始終を見てしまった金子。工場長がカズヤの父親…!?

金子はカズヤと仲良くなろうと話しかけるが、趣味もないし家族もいないし彼女もいない、と躱されてしまう。
逆に俺に質問してくれよ!とカズヤに迫る金子。…彼女できたんですか?なんでわかったんだ!?
カズヤは人の心が読める、サイコメトラーだった。羨ましがる金子に、いいことばかり見えるわけじゃない、と冷たいカズヤ。父親に虐待され孤児院で育った過去を持つ。
実は俺も孤児院で育ったんだ。俺の過去を読めよ!強引に自分に触らせる金子。父親が殺人事件を犯し、殺人犯の息子というレッテルを貼られ育ってきた。

コインゲームで昼休みを潰したり、平和な職場で仕事が楽しいと喜ぶカズヤ。嬉しそうに見守るケン。
ケンさんは、サイコメトリーが無くなって良かったと思う?ああ、ずいぶん苦しんだからね。何がそんなに苦しかったの?それは言えない。
カズヤと入れ替わりに金子がやってくる。カズヤ明るくなりましたよね。ああ、仕事が楽しいらしい。そっか。カズヤが能力で悩まなくなったみたいで。サイコメトリーについて教えてくださいよ。
僕はもう読み取る力はないから何も教えられないけど、こんなに親身になってくれる友達がいて羨ましいよ。俺にはいなかったから。1人だけいたけどね。いた…ですか。トシヤっていう君のとこの工場長だよ。
トシヤは幼馴染でね。もう1人、ユリコっていう女の子と3人でいつも一緒にいた。僕はユリコと付き合ってたんだけど、浮気してるんじゃないかと思い始めてね。ユリコはトシヤが好きだっていうのが見えたんだ。それがサイコメトリーの始まりだった。トシヤとユリコは結婚したよ。それでカズヤが産まれたんですね。そんなことまで知ってるのか。ちょっと工場長が話してるの聞いちゃって。ユリコはカズヤが産まれてすぐに病気で倒れてね、看病しながら子育てして、そりゃおかしくなるよ。

金子に電話が掛かってくる。はい、金子タモツは父ですが。…え?

仕事中。上の空で様子のおかしい金子。次の仕事を教えて下さい、とカズヤが頼んでも聞いていない。
工場長が追加の発注を持ってきた。明日の朝が期限だという。ピリピリした工場の中、金子だけは上の空。うっかり完成品を壊してしまう。もう帰った方が良くないですか?というカズヤに、帰らせるわけ無いだろ!勝手なこと言うな!と殴るヒロシ。金子は走り去ってしまう。サトシがカズヤに手を貸して立ち上がらせる。
使えねー新人だな、こんなもんで済むと思うなよ、といった負の感情が次々と聞こえてくる。
翌朝になっても様々な負の感情が聞こえ、カズヤは工場から逃げ出してしまう。

孤児院では、院長が赤ん坊をあやしていた。コウジが赤ん坊を抱いていると、カズヤがやってくる。どうしたのカズヤ兄ちゃん!今まで聞こえなかったはずのコウジからも、今すぐ消えろ!という声が聞こえてくる。赤ん坊を抱いても、親に虐待され泣いている様子が聞こえてくる。
この子も虐待を…。人にはいろいろ事情があるんだよ。子供を虐待していい事情ってなんですか!院長、僕の父親は誰なんですか!それは…。院長の腕を触り読み取るカズヤ。工場長…?知ってて僕をあの工場に就職させたんですか!…すまない。

工場長と対面するカズヤ。謝ろうとする工場長から、産まれてこなければ良かったという声が聞こえ、殴り倒して走り去ってしまう。

カズヤを助けてくれ、と頼みに来る工場長。おまえにしか頼めないんだ。…わかったよ。
出て行こうとするケンの診察室へやってくる金子。カズヤを助けたいんだ!今のカズヤは君の話も聞いてくれないかもしれないよ。それでもいいんだ。

1人座り込んで指を噛み震えているカズヤ。金子がやってくる。父親を殴った感想は?おまえ工場長が父親だって知ってたのか!?知ってて笑ってたのか!
違う、違うよ。俺の親父、死んだんだ。一昨日刑務所から連絡があって行ってきた。病気で死んだんだってさ。出所したらぶん殴って恨み晴らしてやろうと思ってたのに、やせ細って死んだんだ。こんなやつに復讐しようと思ってたと思うと虚しくなってさ。前を向いて生きていこうって。だからカズヤにもさ…。うるさい!僕に押し付けるな!
工具箱からナイフを取り出すカズヤ。そこへ工場長とケンがやってくる。工場長は金子を刺そうとしたカズヤを止めているうちに、刺されてしまう。
カズヤ、トシヤを刺したとき、何が見えた?息子を守ろうとする心が見えたんじゃないか?見えるものを否定するな。
カズヤ…すまない…。カズヤにすがりつく工場長。カズヤを心配して孤児院へ様子を見に来る工場長の声が聞こえる。倒れる工場長。うわぁぁー!工場長!トシヤ!

ケーキを作ったとコウジに自慢している院長。ヒロシとサトシ、カズヤと工場長がやってくる。工場長はすっかり傷も癒え、お父さんと呼べないカズヤにもゆっくりでいいから、と諭す。
派手な白スーツにサングラス姿のケンがやってくる。おまたせ。サトシがケンを見てソワソワしだす。サイコメトラーのケンさんですよね!俺ファンなんですよ!読み取ってください!ごめん、俺もう能力ないだ。サイコメトラーならここにいるよ!と金子がカズヤを引っ張りだす。なんでバラすんですか…。いいだろ別に。
しかしカズヤがサトシを触っても何も聞こえない。聞こえなくなった、というカズヤの肩を叩くケン。良かったな。

山添さん素晴らしかったー!初主演とはいえ、過去に出演した神保町花月での役の種類ハンパないしね。1公演でいくつものキャラを切り替えて出てきてたけど、今回のような暗く思い悩むキャラは初めて見た。弱気なキャラから徐々に明るいキャラになって、一気に負の感情が爆発。ガタガタ震えて指噛んでる姿はゾワッと来たね。
寺内さんの大人の落ち着きが素敵すぎて。48歳。低音の響く声だから、静かに穏やかに喋ってる感じがカッコ良かった。カズヤに一度も心を読まれてないのはケンさんだけ。オープニングでカズヤを睨んでいたように見えたのはなんだったんだろう。
千葉さんの院長はハマってたねぇ。真面目な大人、のはずだけどたまにはしゃぐ。私がこの船のキャプテンだ!キャプテンのために命を張れるか?バイキーング!
石橋さんの子供役は可愛い。ただただ可愛い。千葉さんを弄ぶ。私が副キャプテンだ!バイキーング!足の角度どう?
久保田さんは出番もセリフも多くてたまに怪しいときがあったけど、気のいい兄ちゃんって感じで良かった。コインゲームのときのカイジのくだりが楽しそうでw
海志さんも48歳。顔が若いのかなー。あまり見えなかったけども。ラストで急に和解してる!
松本さんはそのまんま!ノリが軽い兄ちゃん。工場の設定なのに緑のTシャツに赤いツナギでクリスマスカラー。
よっちゃんはクールで凶暴な役。意外と何やらせても似合うもんだね。ツナギ姿を見てエクセレントを思い出してしまった。あっちは青だったけど今回は白。

暗いけど泣ける良い話だった。ラストの急な和解にはびっくりしたけど。山添さんと寺内さんの共演が嬉しくて。神保町花月期待の若手。いやー、上手い!芝居とかよくわかんないけど上手い!はず!
客席はほぼ満員。これが1回きりだなんてもったいない。稽古する時間は7回公演と変わらないだろうに。せめて2回くらいはやって欲しいなぁ。

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