ヤン・リーピンの覇王別姫~十面埋伏~

@オーチャードホール 19:00 1階7列19番

2018年9月にチケットを取り、ずっとずっと楽しみにしていた公演がついにやってきた。

舞台の天井一面に吊るされた大量のハサミ。舞台上では、白い着物の女性がハサミを使い紙を切っている。

琵琶を奏でる2人。黒尽くめの男女混合の群衆、客席に降りてきて辺りを見渡す。白い顔の男。群衆と同様の姿の男が太鼓を叩く。
両側の字幕に簡単なストーリー、紙を切る女性が「静」や「始」等の文字を掲げて展開を示す。
最前列が6列目の理由はこれだった。舞台の下に太鼓が置かれ、冒頭で群衆たちが客席へと降りてきた。白い顔の男…後に私の最大のお気に入りキャラとなる韓信も客席から登場。

ストーリーは項羽と劉邦の楚漢戦争、そして虞美人と韓信と蕭何という彼らを取り巻く人々の史実。京劇の覇王別姫がベースになっているようだ。メインキャラはこの5人のみ。
黒い群衆は、アクロバティックなダンスだったり、太極拳のようなゆったりとした動きだったり、コンテンポラリーダンスのような不気味な動きだったり、それぞれが闘ったり、武将たちを支える家臣だったり、オブジェの一部となったり、様々な動きで舞台に登場。
項羽の旗のシーンでは、背中に3本の旗を挿した1人が飛び回っていた。アレは凄い…絶対とんでもない重量だよ…。

項羽はガタイの良い長髪青年、真っ直ぐで力強い印象の素直な動き。片足を振り上げてバク宙、上空でさらに開脚、音もなく着地という技を何度も披露していた。これが凄まじく美しい。おそらく出演者の中で一番大きいのに、軽やかで滞空時間の長いアクロバットがとても美しかった。
虞美人は京劇の伝統に倣って男性が演じている。下履のみの遠目から見たらほぼ全裸な短髪の青年が妖艶な舞を始めたときは驚いた。何も身に着けていなくても性別があやふやに見える魅力。赤い衣装を身に纏い、項羽とともに舞う動きも美しい。赤い紐を自らの首に巻き付けていく回転は、悲哀に満ちた表情が素晴らしい。まぎれもなく青年なのに、虞美人なんだよ。あの説得力はなんなんだろう…。
劉邦はスキンヘッドで長身細身の青年。金色の兜を大事そうに抱えたり被ったり、ちょっとお調子者っぽくも見えるけど俺様な雰囲気が前面に出てる。御輿にもハシゴにもなる乗り物に乗ってご満悦な様子がなんだか微笑ましい。項羽との闘いは真正面からぶつかり合ったり上空で交差したりとド迫力。
韓信(白)は少し小柄で細身、顔も衣装も真っ白なお団子頭の青年。手を腰の後ろに回して、ススス…と姿勢良く歩く姿が特徴的。いかにも参謀・裏方な雰囲気から一変、群衆たちを相手にスタイリッシュかつ激しい戦闘を繰り広げたシーンで心を奪われた。美しい…!暗黒面の(黒)との共闘では、照明によって衣装が透けて、幅広い袴のような衣装で隠されていた脚まで見えて眼福。終盤の水袖を華麗に操る姿にも惚れ惚れ。激しく動き回るから、最初のスンとした白い顔とまとまった髪が徐々に崩れて迫力が増していくのも素晴らしい。
韓信(黒)は(白)と似たような背格好でちょっとガッチリなワイルド系、顔も衣装も黒尽くめ。二重人格な韓信の闇をイメージしているようだ。(白)にまとわりついたり、共に劉邦と闘ったり、時には(白)と支え合うように転がったり。悪友のようでもあり恋人のようでもある不思議なイメージ。
蕭何はスキンヘッドに銀色のラインのメイク、韓信よりもひらりと着物っぽい白衣装。唯一セリフがある語り部。京劇特有の凄まじく通る良い声と歌うような節回し、素早い回転と足を高く蹴り上げる動き、細かな心情を表す手の動き、扇子やヒゲや着物の裾を使いこなす舞。傍観者として闘いには参加しないものの、美しい声とキレのある動きはとても印象的。

終盤、戦場の血の海を表現している赤い羽根が膨大に撒かれた舞台には度肝を抜かれた。その中に飛び込み、這いずり、羽根を舞い上がらせる。水袖の韓信が袖と共に羽根を舞い上がらせる動きが美しい。
どこのシーンか、一面の赤い羽根の中に青い羽根がひとひら混じっていたのが見えた。
上空のハサミはただ吊るされているだけでなく、徐々に下りてきたりカーブを描いたり落ちてきたり、無機質だけど光を反射して様々な色を見せる演出がどことなく不気味。

エンディングは写真撮影OK。2列目とはいえど真ん中なので、わりと良い写真が撮れた。水袖のままの韓信が挨拶とともに赤い羽根を舞い散らせたサービスにはニヤリとした。私が気に入るパフォーマーはだいたいサービス満点。
ヤン・リーピンも登場し、盛大な拍手とともに幕を閉じた。

中国、伝統芸能、ダンス、この時点で好きなジャンルなのは確定なので張り切ってチケットを取っていたのに、何故もう1公演取ろうと思わなかったのか。半年前の自分を揺さぶりたい。
ダンサーの舞踏やアクロバットの技術も凄いし、どんな関係でどんなシーンか、ちゃんと伝わる表現力が一番凄い。京劇ほど派手な衣装や演出ではないからこそ、伝わるものも多いのかな。伝統芸能特有の、いわゆるお約束がハードル高いんだよねぇ。色とか持ち物とか覚えられないよ。その辺はスッキリ排除されてたと思う。
すべて把握した上で、もう一度最初から見たい!韓信の登場回数が結構多かったのに最初の方あまり覚えてない!こんなに気に入るとは…敵に囲まれて中央で縦横無尽というわかりやすくカッコイイシーンがとてもカッコ良かったんだ。演じていた現代舞踏家の肖富春さんはマルチな活躍をしているようなので、何かしらで見るチャンスがあるのではないだろうか…見たい…。語り部の童明光さんは京劇の戯曲だけでなく歌曲でも活動しているようで、CCTVの録画を見つけた。めっちゃイケメンだしめっちゃ歌上手いし。
見たばかりだけどまた見たい。目に焼き付くような真っ赤な羽根と照明のラストが美しかったなぁ。追加公演か再演を望みたい。

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